インタビューにむけて
豊田会長代行(以下、豊田):
本日は株式会社新日本テックの和泉康夫社長をお迎えしてお話しをお伺いいたします。先ずは、インタビューのお時間を頂きありがとうございます。
和泉社長は、超精密加工技術を活かし、顧客満足を第1にとの事業方針を掲げて、顧客が求めるものづくりの課題を、顧客の要求以上に解決するという、高い理念で会社経営を進めておられ、これまでの企業経営への特徴ある取り組みは、第4回ものづくり日本大賞優秀賞の受賞や2009年元気なモノ作り中小企業300社に選出され、また、平成25年には天皇陛下、皇后陛下の行幸啓を賜るなど、加工技術の高さなどについて広く評価を受けておられます。本日は、御社のものづくりへの執念ともいうべき経営の神髄をお聞かせいただきたい。
豊田:
まずは、インタビューに先立ち、企業経営にあたる社長としての一番に意識すべきこと、また、そこでの苦しみや楽しみなどについて、今までのご経験から聞かせ下さい。
和泉社長(以下、社長):
社長は社員さんの生活を預かっており、どのような状況下にあっても結果を出すことが求められますので、苦しいことも多いといえますが、ある意味責任の重さが、楽しみをもたらすともいえるでしょうね。この気持ちが私の社長の責務を支えていると考えています。
絶えず変化する世の中にあって、その変化を捉えることは難しさもありますが楽しみでもあります。これまで、微細精密加工技術で未来を創造し、信頼される企業になること、お客様と共に成長するとの企業理念のもと、社長としての業務に責任と楽しさを求めてきました。
豊田:
社員さんの生活を預かる社長の苦しさと楽しみは分かりました。
それでは「社長」とは何ですかと言われたらどう答えられますか。
社長:
そうですね、社長というのは「世の中に必要とされる仕事を作り出す職業」だと思います。それが社員さんのためでもあるし、社会のためでもあると考えています。
「寿司屋型ものづくり企業」の意味するところ
豊田:
それでは、先ずは、(株)新日本テックの企業の経緯や現状についてお話しいただきたく存じます。
御社の一番の特徴ある取り組みは「寿司屋型ものづくり企業」ということになるでしょうね。その意味するところ、想いをお教えいただけますか。
社長:
常に変化する社会の中で企業が存続するには、時代のニーズに合わせて製品を進化させ続け、常にタイムリーに提供する必要があると考えています。それは、お寿司屋さんが「旬のネタ」をアレンジし、鮮度よく(タイムリーに)明るく元気に提供する姿と同じであると考え「寿司屋型ものづくり」と表現したわけです。
「リクエスト」と「ニーズ」
豊田:
それはどのような考えのもとで生まれてきたのですか。
社長:
先行き不透明で、必ずしも右肩上がりとは言えない状況でも仕事に恵まれるには、次の点が大切だと考えています。
それは、
(1) 「リクエスト」に応えること
(2) 「ニーズ」に応えること
の二つです。
リクエストに応えるとは、お客様が決められた要求事項(リクエスト)に対して、Q(高品質)・C(安価に)・D(早い納期で)・E(環境負荷低減)に配慮してお応えすることです。右肩上がりの時代は、これらリクエストに応えるだけでも事業展開が可能でした。
しかし、リクエストが多様に高度化している現在、リクエストにお応えし続けるだけでは将来への展望が描けないと感じ、私は「ニーズ」に着目しました。ニーズとは、皆さんが困っている課題を指します。ニーズに応えるには、お客様の課題が何であるかを察知し、その課題を解決する技術や製品、サービスを提供することが必要です。
そのソリューション自体が「旬のネタ」であり、ソリューションを高い次元に組み上げていくことで、より一層お客様のお役にたてると考えています。
豊田:
そこが解ですね。
ところで、「応える」ということは、これまでの多くの企業では、そこで困ったことがあったとき、それを聞いてきて、その解決法を提示して解決するという「応え方」が一般的であったと思うのですが、和泉社長のところでは、それのもう一歩先を行っているということでしょうか。
社長:
もう一歩先というよりは、こうすれば更によくなるという技術を設定し、その開発に取り組んでいく必要があると考えています。
企業の「大トロ」は
豊田:
その事業形態においては、必ずしも決まった商品があるというわけではないのですね。その中にあって、今の一番の「売り」は何でしょうか。寿司の「大トロ」は何でしょうか。
社長:
当社は、お客様の生産性を向上する独自の製品群を持っており、これらを機能性金型部品と名付けて商標を取得しています。その機能性金型部品の中でも「大トロ」は、PCD(焼結ダイヤモンド)製の金型部品です。お客様の金型部品を当社のPCD金型部品に交換いただくだけで、金型寿命の大幅な延長が可能となり、生産性も向上します。
PCD金型部品の製造に必要な技術は、先代の時代から開発を始め、サポインなどの支援も得て完成させました。
豊田:
このような核となる技術を生み出すのは、「材料」ですか、「加工技術」ですか。
社長:
この基幹技術は、 PCDという素晴らしい材料に出会ったことも大きな要因ですが、やはり、お客様のご要望にお応えする中で培ってきた加工技術です。
お客様にとって、金型の長寿命化は大きな課題です。金型の寿命が延びれば、メンテナンス回数が減って生産性が上がる上に、金型で生産する製品の品質も安定するため、高硬度のPCD製金型部品を製作しています。昨今、金型をメンテナンスできる技能者が大幅に減少しているので、金型部品の長寿命化は喫緊の課題です。当社のPCD金型部品はこうしたニーズにお応えできると考えています。
PCD金型部品のには三つの超えるべき課題がありました。ダイヤモンドは非常に硬いので研削加工が困難、ダイヤモンド自体が電気を通さないので放電加工が困難、更に、大気中でろう付けすると温度によっては燃えてしまう、の三つです。そのため、PCDに最適な加工方法を探索する研究に取り組みました。
研究開発力を高め、その後の連携で生み出すものは
豊田:
今伺ったアプローチからすると、研究開発が企業の柱を大きく左右することがうかがえますが、開発は自社ですか、あるいは産学連携などをうまく活用されていますか。
社長:
産学連携研究でお世話になっていることが非常に多いです。経済産業省や文部科学省、大阪府、池田泉州銀行などのご支援のもと、大阪大学、熊本大学などとの産官学連携研究、更には産業技術総合研究所、大阪産業技術研究所などの公設試にも協力頂いて、今に至っています。
これらの研究の中から、新たな製品や技術、サービスの芽が出ることが多いため、技術開発を重視しています。私もPCDの特性を活かした超精密研削加工の研究を進める中で、今年3月に工学博士を取得しました。
豊田:
それはおめでとうございます。
大学には、あまり顕在化していない様々な技術シーズが眠っているのですが、そのシーズの価値をどのように見いだすかが鍵でしょうね。
技術開発全般にわたって、その方向性はどのように判断されていますか。
社長:
どのようなネタの寿司にするかの判断は、社長である私が行います。
多くの場合、ニーズに対する判断は人に依存するのですが、どの領域までのニーズをターゲットと考えるかによって、ソリューションの決定と取組みに大きな差が出ますので、その判断が難しいところです。
今までの仕事から習得した技術やサービスを今までのお客様に提供する段階(図の①)から、新たなお客様に販路を開拓する(図中の右矢印)には、技術の深耕が必要ですが、それだけでは新たな仕事の創造には繋がりません。そこで、今までのお客様からまだ頂いていない仕事があるはずだと考え、お客様のニーズを一層広く深く把握するよう努めています(図中の下矢印)。
つまり、お客様と、仕事領域を交互に拡大するアプローチを繰り返す中から、新たな技術や製品、サービスの創出と進化が実現できると考えています。
豊田:
この場合、お客様のニーズを引き出すことが重要となりますが、現在、お客さんはあまりニーズをしゃべらない(しゃべれない)傾向にあるのではないでしょうか。
社長:
はい、お客様のニーズを引き出すのは確かに難しい問題です。そこで展示会などを活用して、提案製品を当方から出展して、来場者さんの反応を窺います。午前中の来場者さんと午後の来場者さんの反応が同じ内容だと、展示品を改善する方向性が見えてきます。このあたりの判断が鍵だと思います。
豊田:
やはり大事なのは目の付け所なのでしょうね。最終的には社長の和泉さんが判断されるのでしょうが、どのように情報をとり、それを展開できる陣容はどうなっていますか。
社長:
その機能の組織化は、考えていく必要があります。
技術者は自らの技術を掘り下げることに力を注ぎがちですが、商売のネタや課題を探し、そのソリューションとなる技術やサービスを提供して事業化するには、経営者としての「技術経営」の視点が必要だと思います。「これなら商売になる」という経営者的な直感が必要であり、このあたりの判断が技術者・研究者の判断とは異なるのではないでしょうか。必要な技術やサービスを生み出すには、自分が詳しくない分野であっても、勉強していくことが求められます。自社で知見が不足する分野については、大学や公設試など多くの皆様にご相談するようにしています。
豊田:
それが技術経営の神髄なのでしょうね。技術者自らが突き進んで取り組んでいるとき、意外とマネージメントにつながらないことも多いのですが、そこが「技術経営」のポイントなのですね。
社長:
技術開発と商品化・事業化のずれは大きな課題ですので、節目節目に技術を形にして市場の声を聴くことが大切だと思います。また、技術開発や市場調査の過程で、新たなテーマが生まれることがよくあります。こうした新製品を展示会などに出展すると、「いったい誰がどのようにしてこれを考えたのですか?」と訊かれることがあります。この融通の利いたアプローチはニッチな市場にも目を向ける中小企業だからこそできるともいえます。経営者の判断で瞬間に動ける、話をつけることができるという「機動力」が強みです。
企業形態の拡大に向けての経営の視点は
豊田:
技術開発と技術経営とのつながりやその機動性についてお話を伺いましたが、現在のマネージメントの仕方は、ある意味70人規模の企業体だからできるともいえますが、今後の企業規模の拡大、中堅企業への転身をめざすという中・長期的な視点では、どのような企業形態を考えておられますか。
社長:
そうですね、もう一つ上のビジネスモデルですね。中堅企業への転換には売上高10億円から30億円などの壁があるとよく言われます。こうした壁を乗り越えるには、周りの企業などを巻き込んだ「新しい流れ」を作り、製品や技術の付加価値を上げる必要があります。これから伸びていく分野を見極めつつ、多くのニッチな市場でのシェアを高めるために、独自の製品群を充実させ、お客様も社員さんも共に幸せになる道を切り拓きたいと考えています。
豊田:
現在の「寿司屋型ものづくり」は、「お客様の望まれることは何でもやりますよ」的な感じに受けとるのですが、お客様から高い要求が出てきたときに、量的、質的な限界をどのように乗り越えようとしておられますか。
社長:
求められる高い要求に対して、経営資源が不足しているから対応できないとは言えませんので、自助努力は勿論ですが、助けて下さる皆様、例えば新鋭経営会での岩田会長はじめ参加企業の皆様のお知恵やお力をお借りしながら、対応できればと考えています。、
豊田:
多分今お話しいただいている道は、ある意味これまでの成功例をあげておられるのでしょうが、うまくいかなかった場合もあったはずで、そのときにはどうされましたか。
社長:
確かに失敗例はありますが、ほとんどはうまくいっています。それは、失敗まで直進して進むのでなく、目標を見極めて、修正を入れながら、製品を作り、そこでアンケートを採り、どこに問題や課題があるか見極め、各段階での必要な処置を着実に行うからです。
豊田:
この道を選べるためには、豊富なアイデアと、それを実現する人材が必要ですね。
差別化が問われる:造ったものの弱いところに目を
豊田:
これまでの話からも分かるように、和泉社長様のところのキーは技術開発力の高さですね。ポイントは、高い加工技術力をどう活かすかでしょうか。
社長:
加工技術に関しては、最近の加工機械は非常に高度なものが手に入りますから、機械のみでは「差別化」は不可能です。加工プラス何かが重要で、加工+表面処理、材料知識を活かした材料の選択などで差別化していくことが重要です。
豊田:
精密加工を行っているところは我が国にも万とある訳ですから、いま話された差別化がポイントですね。ここに頼まなければならないという信頼を得るにはどうすればいいでしょうか。
社長:
差別化で大事なところは、ニーズに対する継続的なソリューションの提供です。
商品を開発しますと、その課題が見えてきます。例えばフッ素材料が高熱に弱いなら耐熱性に優れる表面処理を開発しよう、樹脂の成形時間を短縮するには必要な箇所を冷却し、断熱すべき箇所を断熱し、ノズルも改良しよう、などと課題の克服に努めます。自社の製品の不具合を超えるライバルは他社でなく自社であるとの考えから、バリエーションをどんどん増やしていけるのです。また、そのような開発が得意な会社だと認知されると、次々とお声がかかってくるのです。ある意味、それが技術力に対する「信頼」を生むのです。
豊田:
これが今のお客さんからの信頼という形で企業を支えているのですね。
価値づくりの長期戦略
豊田:
さて、技術力を高め、差別化を図ってこられた訳ですが、次の段階はどうなるでしょうか。
社長:
今は金型、金型部品、または自動機などを製作・販売していますが、次の段階としては、金型や部品だけではなく、それを使って作った製品を販売する、いわゆるメーカへの道も考えています。製作した金型で成形した製品を販売する取り組みも進めています。
豊田:
それはある意味一大改革ですね。
社長:
これは、銀行のビジネス交流会でコンソーシアム研究開発の成果発表をしましたところ、あるお客様の製品立ち上げにお声をかけていただいた次第です。この立ち上げの中で、ビジネスモデルが進化していくと考えています。
豊田:
いま、目指しておられる方向が中堅企業への道なのでしょうね。
社長:
やはり中堅への道のためには、藤井先生が新鋭経営会で指摘されましたように、Service Profit Chainが重要で、お客様と社員さんの満足度を上げつつ、「価値づくり」を続けていかないと、ビジネスモデルを向上できません。
豊田:
今目指しておられる方向から見て、AIとかIoTと言われる情報関係の話題は、どのように関係してきますか。例えば、AIは第3次ブームと言われますが、ブームで有る限り廃るものがあるのですが、今回は選別が進み、生まれて残るものがあるのではないかともいわれています。言い方を変えればうまく使うところが残るともいえます。
和泉社長の考えておられるチェーンを作るという戦略にAIやIoTは関係してきますか。
社長:
AIやIoTが現実の事業に直接どのように関係するかがイメージできないのが実情です。価値づくりにおいては、困りごとをどのように解決できるかを探る上で、落としどころの仮説を立てることが大切です。こうしたソリューション開発の手段として、AIやIoTをうまく使えればと思います。
豊田:
結局は、コンセプトが先にあって、その上で使える手段ということなのでしょうね。
社長:
結局は、お困りごとさえ頂ければ、解決して行ける、その力が問われて、それが差別化を生むわけで、AIが生み出すとは思えないというのが現状の理解です。
最終的には、単に困りごとに応えるのみでなく、もう一つ上のソリューションを提示できることが、一番の強みになると感じています。
豊田:
お寿司に戻ると、並みを注文されたときに、うちは上、更には、その上より高い価値を持つものができる体制にある提案できるということで、それが次の注文につながるということですね。
それができていることが和泉社長のところの強みといえるわけですね。
社長:
一方が満足するだけでなく、一段上を提示することで、互いにアップグレードして、更にオンリーワンとなっていくことを目指しています。
ネットワークが大切:株式会社ケイオスと「待ち工場」からの脱却
豊田:
今後の展開として、これまでの話で、商品化というキーワードを提示されましたが、それ以外に何か考えておられることがありますか。
社長:
商品化以外には、先ずはネットワーク構築ですね。ネットワーク力は今後ますます求められると思います。今までは一つの産業クラスターを担ってきました。それを守ることも大切なのですが、やはり、限られた時間と資産でアウトプットを出して行くには、一緒にイノベーションを担っていける仲間の存在が不可欠だと考えます。
豊田:
その意味で、何か動きをしておられますか。
社長:
平成22年に、大阪のものづくり中小企業の経営者19名で株式会社大阪ケイオスを設立し、①イノベーション、②販路拡大、③人材の採用と育成、の三つの活動を行っています。大阪ケイオスは異業種企業の集まりであるため、人材の採用や育成が一番の共通項であり、最も力を注いでいます。その甲斐があって、採用の難しい昨今でも各社の人材の採用と育成に大きな成果が出ています。
その様子は、機関誌ケイオスニュースVol.1でも紹介しています。中小企業では、人材採用が毎年とは限らず、また採用者数も少数である場合が多いため、新入社員さんが社内で孤独感を抱くケースも多いようです。しかし、大阪ケイオスは業種を超えて約20社で内定者ミーティング、新入社員研修、中堅社員研修を行っているため、同期にあたる仲間も多く、人的ネットワークと共に深い連帯感が育っています。社長同士の繋がりが、社員さん同士の繋がり、企業力の繋がりへと広がることにより、各社の製品開発やイノベーションにも良い影響が出て来ています。
私は「人が元気に成長できる場を作りたい」と申しましたが、仲間の皆さんのお蔭で少しは実現できるようになってきたと考えています。
豊田:
人材の採用・育成で大切なことは、ここで働く魅力を見せることだと思うのですが、このような活動を通じてそれが実現できていますか。今の若い人には、成功につながる道を見せることが大切なような気がしますが。
社長:
そうですね。魅力を見せるための努力は今後も続けるべきかと感じています。
当社も含め、製造業の企業の多くは、ホームページで自社製品の性能や仕様をアピールしていますが、若い人たちが関心を持ち、魅力に感じるのは製品情報ではないと思います。その企業が何を大事にしているのか、その企業の「ものがたり」は何か、どんな人たちがどのような思いをこめて製品を作っているのか、という「ものづくりの背景」ににある「ものがたり」に関心を持ち、魅力に思うのではないでしょうか? 私たちも企業の「ものがたり」をアピールし、共感して入社してくれる若い人たちと、新たなものがたりを共に創っていきたいと考えています。
豊田:
結局、ものづくりの発展形は、ものがたりを大切にする中でみえてくるということでしょうか。
社長:
はい。そうだと思います。ネットワークを活かして「共に仕事を創る」ためには、本当の情報共有が必要だと思います。当社も含めて、「町工場」、の多くは仕事を待つ、いわば「待ち」の営業スタイルをとることが多かったかもしれませんが、ネットワークを活かして情報を集め、共に仕事を創りだすことで、「町工場(待ち工場)からの脱却」を図る必要があると指摘されています。私たちもそのように進んでいきたいと考えています。
豊田:
連携、を継続するためには、互いにwin-winでなければならないでしょう。そのためには?
社長:
今問われているのは、互いの力を合わせてwinとなる技術が求められているといえます。
大切なことは、技術を「もの」にして、すなわち「技術を形に」することが求められており、そのような高みを目指さないとwinにはならないでしょう。
豊田:
先ほどから出ている商品化というのは、この技術を形にして商売をするということなのですね。
社長:
ただ、最近のお客様の発注形態で気になることがあります。最近はビジネスが加速し、比較的大きな単位の仕事が増えつつあるため、受注量の変動幅が拡大する傾向があると思います。その結果、繁閑の差が激しくなり、社員さんの労働時間が大きく変動する事態も発生しています。働き方改革が叫ばれる中、繁閑差の拡大は大きな課題となっています。
今後はネットワークの活用と、新しいビジネスモデルの構築が求められます。
豊田:
これまでいろいろと伺いましたが、社長として是非伝えておきたいことはありますか。
社長:
現在の流れをみるとき、1社だけでは何も進まないことも多いので、多くの企業が連携して取り組む必要が高まっています。そのためには、経営者同士が「開いた気持ち」を持つことが大切だと思います。業種形態の近い企業同士はお互いに警戒し合うため、仲良くなりにくい場合が多いと思いますが、新鋭経営会では近い業種の経営者の方とも親しく話し合えるため、ライバル企業でも仲間になれる素晴らしい環境だと考えています。
こうした環境はとても大事ですので、今後も是非続けていただきたいと感じております。
社長人生観は:人財を大切に
豊田:
いろいろと技術のあり方や経営の展開などについて話を伺ってきましたが、そろそろ社長としての想いについてお話を聞けたらと思います。
社長に人生観はと問われたら?
社長:
会社の社長として、「人々が元気に成長できる場を創りたい」ということです。会社というのは、社会の縮図であって、価値観などが異なるいろいろな世代の人々が集まって、自然な形にみんなが頑張っていっていることが理想ですね。
豊田:
よく多様性と言われるのですが、この点についてはどうですか。
社長:
お客様がどのような困ったことを提示されても解決できる多様な技術力を提示できる会社でありたいと思っています。
趣味は:健全な素人の世界
豊田:
かなり長時間お話をお伺いしてきましたが、さて、和泉社長の趣味は何ですか。
社長:
釣りが好きですが、なかなか行けていません。趣味とは、毎日取り組むものであり、仕事にも多くのアナロジーや示唆を与えてくれるものであるとの考えから、今は会社のロッカーにギターをおいて、昼休みに毎日ギターを弾いています。
36歳頃から始めたので、17年間ほど続けていることになります。
豊田:
クラシックギターですか。
社長:
はい。クラシックの曲も弾きますが、最近は演歌を多く弾いています。
全くの素人からギターを始めた理由は、「健全な素人の世界」を持っていないと、人にものを上手く教えることができないと考えたからです。
技術を深掘りするばかりでは思考も固まってしまいます。素人として先生から手ほどきを受ける経験を持っていると、人にものを教えるときに、上手く教えやすいと思います。ですので、多くの事に挑戦し、「健全な素人の世界」をもつことが大切だと考えています。
豊田:
それでは、最後に座右の銘を聞かせて下さい。
社長:
「進取果敢」(註:みずから進んで積極的に事をなし、決断力が強く大胆に突き進むさま。「進取」はみずから進んで事をなすこと。「果敢」は決断力が強く大胆に物事を行うさま。)です。
社長になったときに、自分はどういう姿勢で経営していくべきかを考え選んだ言葉です。
豊田:
本日は、長時間にわたりありがとうございました。和泉社長の想いをいろいろな面からお聞かせいただきました。社長としての責任を果たしつつ、新しい試みを考え、社員の幸福を楽しむという姿勢には感動いたしました。
今後のますますの発展を祈念しつつ、本日のインタビューを終わらせていただきます。
(インタビュー後記)
今回のインタビューでは、和泉社長は、まさに座右の銘の「進取果敢」のごとく、従業員を想い、顧客第1に満足度を高めるという高い経営方針を力強く語っていただきました。短い時間ではありましたが、和泉社長の人となりの一端を伺うことができ、社員を大切にする技術経営への積極的な姿勢は、ある意味、これまでの成果の裏付けによる自信とも感じました。価値づくりと技術及びそれを用いたものづくりの差別化を目指すという、次なる発展を想起させる発言の数々は、他の経営者への一つの助言となるのではないでしょうか。(豊田)
和泉社長が技術者として、また経営者として、右肩上がりとは言えない時代でもどのように仕事を作っていけるかを考え、顧客からの「リクエスト」だけではなく市場がどのような「ニーズ」を求めているか模索しながら価値の高い仕事を創りだしていく姿勢がとても印象に残っております。(岩本)